今回は抗凝固薬についてまとめていきます。抗凝固薬は苦手じゃないよという方もいると思いますが、循環器系は全てこのタイトルでいくつもりなので許してください…笑
まず、抗凝固薬を飲んだ方がいいのか、ワルファリン(ワーファリン)について、その後DOACについて項目ごとに説明していきます。
抗凝固薬を飲んだ方がいいのか
DOACが登場するまでの抗凝固薬は長年ワルファリン(ワーファリン)のみでした。そこでワルファリンを例に説明していきます。ワルファリンをPT-INR2~3でコントロールした場合に頭蓋内出血を起こすリスクは約0.5%/年とされ、この「リスク」を上回るだけの「ベネフィット」があれば基本的にはワルファリンを服用した方がいいということになります。それを簡単に評価する方法としてCHADS2スコアがあります。CHADS2スコアは心房細動における脳梗塞発症のリスク評価方法で、
C(Congestive heart failure[心不全])1点
H(Hypertension[高血圧])1点
A(Age≧75[75歳以上の高齢者])1点
D(Diabetes melitus[糖尿病])1点
S(Stroke/transient ischemic attack[脳梗塞/一過性脳虚血発作(TIA)の既往])2点
で該当する項目の点数を足すだけで簡単に評価できます。CHADS2スコアが高いほど脳梗塞発症のリスクが高いことになり、ワルファリンを服用することによる「ベネフィット」が大きいことになります。DOACでも同様のことが言えます。DOACの中にはワルファリンよりも出血リスクが低い薬もあるのでそれらに関しては「リスク」が小さいことで相対的に「ベネフィット」との差も大きいのではないかと思われます。CHADS2スコアが1点以上でDOAC推奨、ワルファリン考慮可となっています。CHADS2スコアと別に転倒による出血の危険性も考えられますが、転倒による出血の「リスク」が抗凝固薬内服による「ベネフィット」を上回るためには毎日転倒する必要があると計算されているようで、転倒は抗凝固療法を妨げる理由にはならないようです。
ワルファリン
PT-INR・TTR
ワルファリンはPT-INRを治療域内にコントロールしないと期待される効果が得られません。その指標としてINR至適範囲内時間(TTR:time in therapeutic range)があります。予後改善の観点からTTRは少なくとも60%以上に保つ必要があるとされています。簡単に説明すると10回検査して6回以上治療域内である必要があります。心房細動のPT-INRの治療域は1.6~2.6とされ、70歳未満で血栓リスクが高い場合は2.0~3.0とされています。ワルファリンは薬の相互作用が多いため、TTRが不良である場合があります。抗菌薬を服用した場合は、腸内のビタミンK産生菌に影響するためPT-INRに影響が出ることもあります。
作用機序・注意点
ワルファリンはビタミンK依存性の血液凝固因子である第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の整合性を抑制し抗凝固作用を発揮します。半減期はそれぞれ2.8~4.4日、1.5~5時間、20~24時間、1~2日です。ワルファリンはこれらだけでなく凝固阻止因子であるプロテインC、プロテインSも抑制します。半減期はそれぞれ6~8時間、2~3日です。ワルファリンを投与すると4つの凝固因子を抑制して十分に抗凝固活性を発揮する前に、半減期の比較的短いプロテインCが抑制されることで凝固活性化状態になることがあります。よって投与初期にはかえって凝固しやすくなることがあるので注意が必要です。
納豆・ビタミンK
ワルファリンは作用機序からビタミンKを多量に摂取してはいけないというのはみなさんご存知かと思います。ではどれほどのビタミンKなら摂取しても影響がないのか。200μg/日までなら影響がないとされています。日本人の食事摂取基準では目安量として150μgとされているので通常の食事摂取であれば影響がないと考えられます。納豆を食べると、納豆菌が体内でビタミンKを作り続けるので食べてはいけないとされています。納豆菌を死滅させれば食べていいのでは?と考えましたが、それでも納豆は1パック40gに240μgなのでやはりダメなようです。
DOACの適応・禁忌
ワルファリンと比べてPT-INRのモニタリング不要・作用発現と消失が速い・食事制限がない・薬物相互作用が少ない・薬価が高いというのがDOACの特徴です。しかし、DOACの主な適応は「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」です。ここで、「非弁膜症性」とはどういう意味か?2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドラインでは生体弁を用いた人工弁は「非弁膜症」と定義されました。その結果、僧帽弁狭窄症および機械弁置換術後のみが「弁膜症性」、それ以外はすべて「非弁膜症性」とされました。「弁膜症性」の場合はDOACは適応外となり、ワルファリンのみの適応となります。DOACはCcr15未満が禁忌とされている(ダビガトランはCcr30未満が禁忌)ので、その場合選択可能な抗凝固薬はワルファリンのみとなります。しかし添付文書上はワルファリンも重度の腎障害に対して原則禁忌とされており、日本透析医学会でも維持透析導入後の患者に対するワルファリン投与を原則禁忌とされています。DOACの他の適応として「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制」があります。この適応があるのはアピキサバンとリバーロキサバンのみです。リバーロキサバンに関しては唯一小児に対して「静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制」の適応があります。
DOACの薬価・剤形
2021年4月時点で1日薬価は以下のようになります。ここでは分かりやすいように商品名で記載します。
通常時プラザキサ552円、エリキュース489円、リクシアナ417円、イグザレルト517円
減量時プラザキサ484円、エリキュース270円、リクシアナ208円、イグザレルト364円
通常時は1日当たりプラザキサ300mg、エリキュース10mg、リクシアナ60mg、イグザレルト15mg(錠剤)としており、減量時は1日当たりプラザキサ220mg、エリキュース5mg、リクシアナ30mg(60mgを0.5錠)、イグザレルト10mgとしています。リクシアナが安く、プラザキサが高いですね。剤形としてはプラザキサはカプセルのみ、エリキュースは錠のみ、リクシアナは錠・OD錠、イグザレルトは錠・OD錠・細粒・ドライシロップがあります。やはりOD錠は飲みやすいので好まれると思います。
DOACの腎排泄率・併用注意薬
DOACは減量基準の存在から腎排泄が主の排泄経路として認識されがちですが実はそれほど腎排泄率は高くないんです。僕が説明するよりもとても良い資料があるので直接経口抗凝固薬(DOAC)の特徴と使い分けを参照してください。最も腎排泄率が低いアピキサバンはアメリカでは透析患者に対して使用が認められています。最も腎排泄率の高いダビガトランは術前休薬の際、腎機能に応じて休薬期間を長めに必要とします(詳細は抗凝固療法の適応と実際参照)。また、腎排泄率が高くないということで肝代謝の影響を考慮する必要があるのですが、それも直接経口抗凝固薬(DOAC)の特徴と使い分けを参照してください。循環器でよく使用されるアミオダロン(アンカロン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)、ベラパミル(ワソラン)あたりが併用時にDOACを減量しなければならない場合があるのでDOAC使用時は併用薬に注意する必要があります。添付文書上は併用注意となっていますが、DOACの効果に影響を与えるということは出血リスク・脳梗塞リスクに直結するため適切に対応する必要があると考えます。これまでの僕の経験としては、エドキサバン服用患者にアミオダロンが追加されリバーロキサバンに変更した例、アピキサバン服用患者にリファンピシンが追加されエドキサバンに変更した例などがあります。僕は直接経口抗凝固薬(DOAC)の特徴と使い分けの表4と表5を両面縮小コピー・ラミネートして業務中携帯しています。併用薬との関係を4剤それぞれで覚えられないのでDOACをよく使用される方は携帯をオススメします。
DOACの減量基準
DOACは減量基準に該当しなければ通常量を投与することとされています。減量基準は4剤でそれぞれ異なるので非常にめんどくさいです。それぞれの減量基準は添付文書を参照してください。年齢的に最も早く減量できるのはダビガトランの70歳、体重的に最も早く減量できるのはエドキサバンの60kgです。最新の知見として、2020年8月に発表されたELDERCARE-AF試験があります。80歳以上の心房細動患者に対してプラセボと比較してエドキサバン15mgの有効性と安全性が示されました。高齢の出血リスクが高い患者にはエドキサバン15mgという選択も可能となります。
どのDOACを選択するか?
最後に個人的な意見も加えながらどのDOACを選択するかを考えていきます。2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドラインでは「出血リスクの高い患者に対しては大出血発生率が低いアピキサバン、ダビガトラン220mg/日、エドキサバンを用いる」とされています。よって分1の場合は第一選択エドキサバン、併用薬に問題があればリバーロキサバンとします(僕は)。分2の場合は高齢・腎機能低下があればアピキサバン、70歳以上で減量で投与したいがアピキサバンの減量基準に該当しないようならダビガトラン、それ以外で併用薬に問題がなければダビガトラン・アピキサバンのどちらでも良いと思います(僕は)。
参考資料
各薬剤添付文書
最後に
いかがでしたでしょうか?最後のDOACの選択は僕個人の意見ですが上記の比較をもとに考えてもらえればと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント