心筋梗塞後の薬はほぼほぼパターン決まってるので今回は心筋梗塞後の薬物治療について説明していきます。
DAPT
DAPTとは
DAPT(Dual Anti-Platelet Therapy)とは抗血小板薬2剤併用療法のことです。アスピリンとチエノピリジン系のプラスグレル(エフィエント)、クロピドグレル(プラビックス)、チカグレロル(ブリリンタ)が使用されます。PCI(経皮的冠動脈形成術)の術後にステント血栓症のリスクを低減させる目的で一定期間行われます。その期間は出血リスク、血栓リスクに応じて決められます。2020年JCSガイドラインフォーカスアップデート版冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドライン(以下、冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドラインと記載)では日本版HBR(High Bleeding Risk)評価基準を指標として考慮されます。HBRは以下の画像を見れば分かるように計算などは必要なく、主要項目1つあるいは副次項目2つ満たした場合に高出血リスクと定義され、DAPT期間の短縮が推奨されます。
※補足説明:PCIをざっくり説明すると心筋梗塞の梗塞部位を開通させてステントと呼ばれる管を留置すること
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Kimura_Nakamura.pdf
SAPT・チエノピリジン系比較
DAPT後は生涯SAPT(Single Anti-Platelet Therapy)を継続することとされています。これまではSAPTはアスピリンのみでしたが、冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドラインに「血栓リスクと出血リスクがともに高い患者に対して、DAPTを短期間で終了し、P2Y12受容体拮抗薬単剤投与の継続を考慮する」とありアスピリン以外も選択肢となります。
ここからはP2Y12受容体拮抗薬の違いを説明します。上述したようにクロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルがあります。
クロピドグレル・プラスグレル/チカグレロルの違いは以下の通りです。
SAPTとして 使用可/使用不可
1日の内服回数 1回/2回
血小板を 不可逆的/可逆的 に阻害
プロドラッグ/そのものが活性をもつ
クロピドグレルとプラスグレルの大きな違いは代謝経路です。クロピドグレルの約85%はエステラーゼにより非活性代謝物になり、約15%が主にCYP2C19などで活性代謝物になります。日本人の約20%は遺伝子多型でCYP2C19に関してPM(poor metabolizer)であり、効果に個人差があります。プラスグレルはエステラーゼ、CYP3Aなどで速やかに活性代謝物に代謝されます。クロピドグレルと比べると効果の個人差は少ないと考えられます。PCI後の維持用量はクロピドグレル75mg、プラスグレル3.75mgとされています。プラスグレル添付文書に国内第Ⅱ相試験でのプラスグレル3.75mgと2.5mgの比較があり、高齢・低体重患者に対しては今後2.5mgが推奨されるのかもしれません。
DOAC併用の場合
DAPTを導入する際、すでにDOACを内服している場合は抗血栓薬を3剤併用することになり出血リスクも高くなります。冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドラインでは以下のようになっています。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Kimura_Nakamura.pdf
上記のHBRに該当するかどうかで右か左に分かれますが、血栓リスクはHBRと違って具体的な基準がありません。血栓リスクの指標については以下の図を参考にして、該当項目が多ければ血栓リスクが高いということになりそうです。
DAPT導入時はPPIも導入されることがほとんどです。PPIの適応は「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」なので適応外なのかもしれませんがDAPTでPPIが併用されていない例を見たことがありません。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Kimura_Nakamura.pdf
スタチン・エゼチミブ
虚血性心疾患の主な病態である冠動脈内プラークは、コレステロールの沈着が主な原因とされています。そのため急性心筋梗塞後はLDLコレステロールを70mg/dL未満にすることとされており、スタチン、エゼチミブが使われます。スタチンはストロングスタチンのロスバスタチン(クレストール)、アトルバスタチン(リピトール)、ピタバスタチン(リバロ)が使われ、それらで十分にLDLが下がらなければエゼチミブ(ゼチーア)が併用されます。スタチンを倍量にするよりもエゼチミブと併用する方がLDL低下効果が強いためスタチンを使用しても70mg/dL未満に達しなければエゼチミブの導入が推奨されます。ロスバスタチンは開始後2週間で最大のLDL低下効果の90%に達し、4週間で最大になります。ロスバスタチンはストロングスタチンの中で最も半減期が長いので他のスタチンもこれと同じかそれよりも早いのではないかと思っています。ロスバスタチンは高コレステロール血症には10mgまで使用可能ですが、Ccr30mL/min未満では5mgまでとされています。エゼチミブは開始後2週間で最大のLDL低下効果に達し、中止後2週間で元の数値に戻ります。当院ではエゼチミブの導入、配合剤への変更を見越してピタバスタチンの処方頻度が少ないです。
β遮断薬・ACE阻害薬
急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)では「禁忌のない患者に対して、β遮断薬の経口投与を考慮する」(推奨クラスⅡa)、「禁忌のないすべての患者に対して、ACE阻害薬の投与を考慮する」(推奨クラスⅡa)とされています。どのβ遮断薬、ACE阻害薬を使用するかは過去記事の心不全治療薬を参考にしてください。選び方・考え方は同じです。β遮断薬もACE阻害薬もできるだけ早期の導入が望ましく、すぐ導入しないと忘れてしまうことがあるので急性心筋梗塞後の入院期間で導入されることが望ましいです。
コルヒチン
COLCOT試験により心筋梗塞後の低用量コルヒチンは虚血性心血管イベントを減少させるとされました。この効果は急性期・慢性期問わず認められるようです。当院ではコルヒチン0.5mgを1日1回で処方されますが全例に対しては処方されず、あくまで「炎症」が残る場合に使用されるイメージです。コルヒチンは下痢などの胃腸障害がありますが用量依存的に副作用の頻度が増加します。1.8mg/日を超えないことが望ましいとされています。
参考資料
2020年JCSガイドラインフォーカスアップデート版冠動脈疾患患者における抗血栓療法ガイドライン
急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
COLCOT試験
クレストールインタビューフォーム
エフィエント添付文書
いかがでしたか?急性心筋梗塞後の薬物治療は上記の通り意外と単純ですが、導入薬剤が多いことでポリファーマシーにつながります。しかしDAPTはステント塞栓症の予防のため、β遮断薬とACE阻害薬は将来心不全にならないように必要な薬剤なので、上記導入薬剤以外に不要な薬剤がないか検討することは重要だと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました!
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