今回は心不全の分類、使用する薬についてです。2021年にアップデートされたガイドラインの情報は含んでいません。その内容は次回以降にします。田舎病院の循環器病棟で働く薬剤師からの目線で書いています。
心不全の分類
心不全は心臓の収縮力によって分類できます。心臓は右房、右室、左房、左室の4つの部屋に分かれています。左室から全身に一気に血液を送り出しますが、その時の収縮時容積・拡張時容積から計算されるのが左室駆出率で、心臓の収縮力を示す値になります。左室駆出率は拡張時容積から収縮時容積を差し引いたもの(駆出量)の拡張期容積に対する割合、つまり駆出量/拡張時左室容積×100で求められます。左室駆出率はLVEFと言い、省略して仕事中はEFと呼んでいます。EFが低いのは収縮不全、EFが高いのは拡張不全であることが多いです。EFが40%未満の心不全をHFrEF(ヘフレフ)、EFが50%以上の心不全をHFpEF (ヘフペフ)と言います。40%以上50%未満はHFmrEFと書き、マイルドリデューストなどと言います(ヘムレフと言う人もいるかな?)。HFmrEFの治療はヘフペフに準じることが多いので他職種による心不全カンファレンスではヘフペフとして扱っています。ヘフペフのもっとも多い原因は高血圧とされています。
HFrEF(ヘフレフ)に使用する薬
ヘフレフは薬剤の導入で予後が改善できるので積極的に予後改善薬を導入します。ガイドラインではARNI、ACE阻害薬、β遮断薬がⅠAで推奨されています。ACE阻害薬に忍容性のない場合はARBが推奨されます。浮腫などの心不全症状があり、ARNIまたはACE阻害薬と利尿薬がすでに投与されているEF35%未満にはMRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)が推奨されます。
HFpEF(ヘフペフ)に使用する薬
ヘフペフはヘフレフと違い、まだ予後を改善できるエビデンスのある薬がありません。ヘフレフで導入が推奨される薬剤はいずれも弱い推奨にとどまり、医師の裁量に委ねられます。脈が速ければβ遮断薬を使用したり、血圧が高ければACE阻害薬/ARBを使用したり、浮腫があれば利尿薬を使用したりと対症療法的に薬が追加されることが多いように思います。
ACE阻害薬
ここからは当院での使用状況も含めて書いていきます。ACE阻害薬で慢性心不全の適応があるのは今のところエナラプリル(レニベース)、リシノプリル(ロンゲス)のみです。当院ではエナラプリルしか使用されないのでここからはエナラプリルについて記載します。すでに他のACE阻害薬を服用している場合、医師によってはエナラプリルに変更することもあります。通常2.5mg〜5mgで導入されますが、高齢・腎機能低下・血圧低め・K(カリウム)高めなどがあれば1.25mgから開始されることもあります。高齢患者が多いので維持用量としては2.5〜5mgであることが多いです。ACE阻害薬と言えば空咳の副作用が有名ですが、多くは開始後2週間以内におさまるようです。ただ、空咳の副作用が分かればすぐにARBに変更されることが多いです。心不全とは関係ないですが、ACE阻害薬で空咳が出る機序はみなさんご存知ですよね?ブラジキニンやサブスタンスPが分解抑制されるためですが、このサブスタンスPは咳嗽反射を高めるため、ACE阻害薬は誤嚥性肺炎の予防効果があります。
ARB
ARBで慢性心不全の適応があるのは今のところカンデサルタン(ブロプレス)のみです。すでに他のARBを服用している場合、ACE阻害薬と違いカンデサルタンに変更することはほとんど見たことがありません。カンデサルタンは通常4〜8mgで導入されますが、高齢・腎機能低下・血圧低め・K(カリウム)高めなどがあれば2mgから開始されることもあります。維持用量としては4〜8mgであることが多いです。ACE阻害薬と比べて副作用はほとんど経験したことがありません。一度も経験したことはありませんが、ARBには薬剤性吸収不良症候群という副作用が存在するようです。しかもこの副作用、内服から数年後に発症するが中止後早期に回復するそうです。
ACE阻害薬とARBを患者さんに説明する時「血圧を下げることで心臓の働きを助ける薬」と説明してます。
β遮断薬
β遮断薬で慢性心不全に適応があるのはビソプロロール(メインテート、ビソノテープ)、カルベジロール(アーチスト)の2つです。一昔前は心不全にはβ遮断薬は禁忌とされていました。心臓が弱っているところにさらに心臓を抑える薬はダメ、みたいな。でもβ遮断薬で予後改善効果が示されてからは導入がスタンダードになりました。ただ、導入の際の用量には注意が必要です。いきなり高用量で開始せず少量から漸増が基本です。開業医から高用量で開始されて入院する症例がまれにあります。少量から開始するために2011年にビソプロロール0.625mgが発売されました。カルベジロールも開始用量は1回1.25mgです。ビソプロロール/カルベジロールの違いは①分1/分2②腎排泄/肝代謝③β1選択遮断/αβ遮断、です。③によって血圧降下作用、気管支喘息に使えるかどうかが異なります。カルベジロールはα遮断作用により血圧降下作用がビソプロロールよりも強く、β1選択性がないので気管支喘息に禁忌となっています。ビソプロロールは内服/貼付がありますが、内服2.5mgと貼付4mgで効果が同等とされています。貼付は内服ができない人でも使えるため、医師からは使い勝手が良いと思われがちです。たしかにそうなんですが、注意点が2つあります。1.貼付剤で処方継続するとコンプライアンス低下につながりうる。2.貼付後8時間でほとんど吸収される。1.に関して、多くの薬剤師は経験があると思いますが、貼付剤の服薬コンプライアンスは低いことが多いです。心不全で入院した場合、退院時には多剤処方されていることがほとんどですが、その中でビソプロロールだけが貼付剤であるメリットはないです。飲めない場合は他の薬も粉砕・簡易懸濁になっているのでビソプロロールもそうすれば服薬コンプライアンスは良くなります。導入時は良いのですが、漫然と処方継続されている貼付剤には気をつけてほしいです。これは心不全に関わらず言えることだと思います。2.に関して、貼付剤は剥がれた時の対応がそれぞれ異なるのですが、ビソノテープは貼付後8時間以上後に剥がれた場合は新しくもう1枚貼ると過量ということになります。これも注意が必要かなと思います。
β遮断薬を患者さんに説明する時「脈を下げることで心臓の働きを助ける薬」と説明してます。
MRA
ACE阻害薬、ARB、β遮断薬と違い利尿薬なので慢性心不全の適応がない薬でも使います。当院ではスピロノラクトン(アルダクトン)、エプレレノン(セララ)しか採用がありませんが、新しく発売されている薬もあるので特徴を以下にまとめます。
スピロノラクトン(アルダクトン)
・第一世代、ステロイド骨格
・MR選択性が低く用量依存的に女性化乳房などの副作用のリスクあり
・経口で速やかに吸収され活性代謝物に代謝される。活性代謝物の半減期が長いので臨床的半減期は約20時間になり、服用錠数が増えても分1でOK
完全に脱線ですが、僕が温泉に入っている時に乳首が小豆ほどもあるおじさんがいて、「これが女性化乳房か???」と思ったことがあります。ということで女性化乳房疑いしかまだ見たことありません。
エビデンス的には25~50mgで良いです。
エプレレノン(セララ)
・第二世代、ステロイド骨格
・MR選択性が高く内分泌系副作用が少ない
・クレアチニンクリアランス30mL/分未満は禁忌(高血圧症の適応には50mL/分未満で禁忌)
・高血圧症の適応にはカリウム製剤と併用禁忌
半減期が3時間しかないので1日2回投与が最適と思われますが、添付文書上分1なので分1の処方しか見たことがありません。高齢心不全患者は腎機能が低下していることも多く、ほとんどの場合スピロノラクトンが処方されています。あくまで女性化乳房などによってスピロノラクトンが使用できない場合に使う薬というイメージです。メーカーに確認したところ、本態性高血圧に対しての効果の比較でスピロノラクトン25mgがエプレレノン33~50mg相当だそうです。
エサキセレノン(ミネブロ)
・第三世代、非ステロイド骨格
・MR選択性が高く内分泌系副作用が少ない
・eGFR30mL/min/1.73㎡未満は禁忌
・カリウム製剤と併用禁忌
使用経験なく詳しいこと説明できません…心不全に対してはエプレレノン同様、スピロノラクトンが使えない場合に使用を考慮しそうな薬ですかね。何かスピロノラクトンと比べて良いエビデンスなどが出てこれば使用頻度が上がるかもしれません。
その他の薬について
ヘフレフ、ヘフペフ問わず、ループ利尿薬はフロセミド(ラシックス)よりもアゾセミド(ダイアート)の方が予後改善効果、再増悪抑制効果が大きいです。長時間作用するアゾセミドの方が緩徐な利尿作用を持つということでしょうか。ちなみにフロセミド20mgとアゾセミド30mgがほぼ同等の効果です。
今回の用語
LVEF Left Ventricular Ejection Fraction
HFrEF Heart Failure with reduced Ejection Fraction
HFpEF Heart Failure with preserved Ejection Fraction
今回は少し長くなりすぎましたね。最後まで読んでいただけた方、ありがとうございました。
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