便秘は入院・外来に関わらず多くの人が抱える問題です。特に入院中の便秘は浣腸したり摘便したりと、主に看護師さんによる対応が多く、薬でコントロールできたら看護師さんの業務の負担を軽減できます。そこで、便秘薬をどう使い分けたらいいのかを考えるために特徴・使い分けを解説します。
まずは便秘に関する基礎知識から!
そもそも便秘とは?
便秘に関する定義はいくつかあるようですが、目安は以下です。
- 3日以上排便がない
- 残便感がある
排便回数で便秘かどうかのおよその判断ができますが、排便回数に加えて便の性状も確認をすると良いです。便の性状はブリストルスケールで数値化できます。便秘は患者の主観的な訴えですが、数値化することで客観的に捉えることができます。ブリストルスケールで1〜3なら便を軟らかくする必要があります。5〜7で便秘ということはほとんどないと思いますが、もし残便感があるならば腸を動かすと良いでしょう。
意外と悪い?便秘の予後
実は便秘の予後はみなさんが思っているより悪いんです。
たかが便秘で!?と思いますよね。
でも…
15年の観察研究で慢性便秘があることにより生命予後が有意に悪いという報告もあります。これは、いきみなどで心血管イベントを起こしやすいこと、各種疾患の発症に便秘が重要な役割をしていることがあります。
そうはいっても、便秘の人みんなに薬が必要かというと、そうでもないように思います。生活習慣病と同じように、便秘もまずは以下のような生活指導が大切です。
・適切な水分摂取
水分摂取は脱水にならないように通常の摂取を心がければOKです。摂りすぎても便に水が足されるわけではなく、尿として出るだけだからです。
・食物繊維をとる
通常は食物繊維を摂ると良いですが腸閉塞などには悪化する場合もあるので注意が必要です。
・適度な運動
入院すると便秘になる人がいますが、やはり体を動かさないことによって腸の動きも悪くなり便秘につながることがあります。
便秘薬は大きく2種類に分けられる
さて、ここからが薬の話です。
一つその前に、ほとんどの便秘に対しては薬を使用しますが、大腸狭窄などの疑いがあれば対象外となり、医師に指示を仰ぐ必要があるということは知っておいてください。それ以外では薬を使いますが、便秘薬を大きく分けると①便を軟らかくする②腸を動かすの2つのタイプがあります。
①便を軟らかくするタイプ(非刺激性下剤)
酸化Mg(商品名マグミット)
安価で副作用も少ないのでよく使われますが注意事項がたくさんあります。頻度は少ないですが高Mg血症による死亡事例もあり、注意喚起が出ています。高Mg血症のリスク因子は高齢、長期服用、PPIやH2ブロッカーの併用などがあります。他の薬との相互作用もあり、有名な例としてレボフロキサシン(クラビット)やガレノキサシン(ジェニナック)などのニューキノロン系抗菌薬と同時に服用するとこれらの吸収を低下させます。酸化Mgは胃酸と反応して薬効を発揮するので胃酸の分泌を抑制するPPIやH2ブロッカーと併用すると効果が下がります。
経管投与の際、錠、細粒、末の順で粒子径が大きくなるので粉のほうが良いわけではありません。錠剤は水に容易に溶けるので通常粉砕の必要はありません。酸化Mg錠は200〜500mgで複数規格がありますが全て1錠5.7円です。
ラクツロース(商品名モニラック)
便秘に対しては産婦人科の術後、および小児に対してのみの適応なので広くは使われていないように思います。副作用が少なく、散剤、液剤、ゼリーがあります。モニラックシロップ1mL6.5円です。
モビコール(一般名マクロゴール、炭酸水素ナトリウムなど)
2歳以上から服用可能です。通常、水を飲むとほとんどが消化管で吸収されますが、モビコールはLD1包あたり60mL、HD1包あたり120mLで溶解し、その分が吸収されずに便に届きます。その作用機序から、安全性が非常に高く、飲み合わせに問題もないので医師からも好まれます。注意点としては、モビコールの服用分の水は水分摂取として含まれないため念のため脱水に注意が必要であること、嚥下機能が低下した方には服用が負担になる可能性があることです。年齢によって最大投与量が異なりますが、12歳以上では1日最大量はLD6包、HD3包です。LD1包80円です。HDは2022年1月時点で未発売。
アミティーザ(一般名ルビプロストン)
腸管のクロライドチャネルを刺激して、腸管に水を分泌させ便に水を足す作用です。リンゼスとグーフィスは通常食前ですが、アミティーザは食後でOKです。軟カプセルなので粉砕はできません。副作用として吐き気があります。この吐き気は男性よりも女性で出やすく、若い人ほど出やすいです。重度の腎機能低下者では血中濃度が上昇する可能性があり慎重投与となっています。最大投与量は1回24μgを1日2回です。12μg1Cap58.5円、24μg1Cap116円です。
リンゼス(一般名リナクロチド)
腸管に水を分泌させる作用です。通常食前ですが、これは食後で下痢の副作用が多かったためで、重度の便秘には食後でも良いかもしれません。一包化や粉砕はできません。薬の構造がペプチド(アミノ酸を結合させたもの)です。食事のタンパク質が分解・吸収されるように、リンゼスも分解されるため体内には吸収されないか、吸収されたとしてもその量は極めて少ないので副作用の心配も少ないです。1錠83.6円です。
②腸を動かすタイプ(刺激性下剤)
センノシド(商品名プルゼニド)
便秘薬として多くの人が最初に思い浮かべるであろう薬です。患者さんが下剤の赤い玉と言ったらおそらくこれです。添付文書には、「連用による耐性の増大等のため効果が減弱し、薬剤に頼りがちになることがあるので長期連用を避けること」とあります。内服してから効果が出るまでに時間がかかるため、添付文書上でも就寝前内服とされています。一包化、粉砕可です。最大投与量は12mgを4錠までです。プルゼニド1錠5.7円です。
アローゼン
センノシドの顆粒版みたいなイメージです。通常1回0.5〜1.0gを1日1〜2回(適宜増減可)なので、1回最大量2.0g、1日最大量4.0gです(適宜増減可は1/2〜2倍まで可という意味)。内服により、尿が黄褐色〜赤色になることがあります。1g6.7円です。
ピコスルファート(商品名ラキソベロン)
センノシドよりも作用がマイルドなイメージです。剤形としては、液剤、錠剤があります。液剤は用量調節ができ、6ヶ月未満でも内服可能です。液剤5滴で2.5mg1錠分に相当します。ラキソベロン2.5mg1錠7.2円、内用液1本10mL197円です。
テレミンソフト(一般名ビサコジル)
結腸・直腸に選択的に作用し蠕動運動を促進します。坐剤のため、内服できない方でも使用可能です。成人は1回10mgですが、乳幼児は1回2mgです。いずれも通常1日1〜2回(適宜増減可)です。坐薬は冷所保存のものもありますが、テレミンは高温を避けて室温(1〜30℃)保存が可能です。10mg1個20.3円、2mg1個19.7円です。
新レシカルボン(成分炭酸水素ナトリウムなど)
炭酸ガスを発生し蠕動運動を亢進します。通常1〜2個をできるだけ肛門内深く挿入します。重症の場合には1日2〜3個を数日間続けて使用します。テレミンと違い冷所(15℃以下)保存です。1個51.4円です(古い薬だけど意外と高め)。
①+②
グーフィス(一般名エロビキシバット)
通常、食事をとるとその刺激で胆汁(主成分は胆汁酸)が分泌され食事中の脂肪の消化・吸収に関与します。胆汁酸のほとんどは小腸で再吸収されますが、胆汁酸が大腸に到達すると水分を分泌させ蠕動運動が促進されます。グーフィスは胆汁酸の再吸収を阻害することで、その胆汁酸の作用を強めます。そのため、食前内服です。食事がほとんど摂取できていない人は、食事による胆汁分泌が低下していると考えられるのでグーフィスの効果も減弱すると考えられます。一包化、粉砕可で、腎機能低下者・透析患者にも投与可能です。副作用として腹痛があります。通常1回2錠で、最大量は3錠です。1錠100.2円です。
その他
スインプロイク(一般名ナルデメジン)
オピオイドによる便秘のみに使用できます。通常1回1錠です。一包化、粉砕可能です。1錠277.1円です(お高めだけど、リンゼス、グーフィス、アミティーザを通常量で使用するとだいたい同じくらいになります)。
コロネル、ポリフル(一般名ポリカルボフィルCa)
胃内の酸性条件下でCaを脱離して、小腸・大腸の中性条件下で膨潤・ゲル化する作用なので、便秘・下痢の両方に使用できます。中等度〜重度の腎機能低下には禁忌です。通常、成人には1日量1.5〜3gを3回に分けて服用です。服用後に途中でつっかえると、そこで膨張して喉・食道を閉塞する可能性があるのでコップ1杯程度の十分量の水で服用する必要があります。500mg1錠13.2円、細粒1g20.4円(500mg12.2円、1000mg24.5円)です。
グリセリン浣腸
浣腸することで、注入したものと腸の内容物を排出します。薬の作用として腸管運動の収縮力を増すので、添付文書には、「連用による耐性の増大等のため効果が減弱し、薬剤に頼りがちになることがあるので長期連用を避けること」とあります。30cc100円、60cc107円、120cc140円、150cc167円ほどです。
漢方
そもそも漢方とは、生薬を複数組み合わせた配合剤のことです。それぞれの生薬には役割があり、瀉下作用のある大黄、腸に水分を与える芒硝、麻子仁を含有する漢方が便秘に効果があります。便秘に適応のある漢方も多いので、特徴だけ一言ずつつけて紹介します。いずれも長期使用よりは、頓服や症状のある間だけの内服が良い印象です。
- とりあえず便秘には大黄甘草湯
- 効かなければ調胃承気湯
- イライラ・発熱あれば大承気湯
- 月経あれば桃核承気湯
- 乾燥便には麻子仁丸
- 全身の乾燥あれば潤腸湯
- 強い腹痛あれば桂枝加芍薬大黄湯
って感じです。
使い分け
上記の特徴を踏まえたうえで、使い分けです。絶対にこれというものはなく、個人的見解なのであくまで参考程度に捉えていただければと思います。
- 第一選択は酸化Mg
- 効果がなければ新規便秘薬(アミティーザ、リンゼス、グーフィスのどれか)を追加
- それでも効果がなければ刺激性下剤を頓服で追加
以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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